「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んだよ④

もう11月も折り返し地点。今年も終わりですな。昨日久々に飲みに出かけたけど、飲み屋すごい勢いで、日常を取り戻してたな。メチャメチャ急激に金を使ってる。飲み代、タクシー代、昨日だけでも数万使ってる。忘年会シーズンで破産するかも…

 

<ちょっとまとめて総論>

もう結論から行くと、現在の豊な国とそうでない国の違いは、19世紀末の工業化に伴う経済成長の波に乗れたか?そうでないか?というところがポイント。

波に乗れた国は、政治権力の移譲によって、絶対主義から民主的な政治体制に移行しているという点がポイント。それに伴って、身分の平等、私有財産権、法の下での平等など、政治制度が平等になることが前提となっている。

絶対主義を打倒した包括的制度を持つ国(西欧+米豪+日本)と絶対主義が強化され工業化に抵抗した国(東欧+オスマン帝国+中国)を比較している。

特に西欧はナポレオン時代の周辺諸国への侵攻と、社会制度の力づくでの改革で、工業化の道が開かれた…と、やっぱりナポレオンってスゴイのね。

なんか寄り道してるけど、フランス革命からナポレオン戦争を勉強したいのに…

一体、俺は何をしてるん…?

 

<東南アジア>

バンダ群島の話が衝撃…

当時の覇権国家だったオランダが現地のスパイス貿易を独占しようとする中で、現地の政治権力者から貿易の独占権を認めてもらうパターンが多かったとあるが、バンダ群島はメースやナツメグといった産品を持つ都市国家の集合体だった。

 

メース/Mace|スパイス&ハーブ検索|S&B エスビー食品株式会社 (sbfoods.co.jp)

…メースってメジャーなんですかね。あまり知りませんでしたが。

 

そのため、オランダはバンダ群島では独占貿易ができず、様々な国と競合していた。この状況を打破すべく、初代バタビア総督のヤン・ピーテルス・クーンが艦隊を派遣してバンダ群島の住民のうちスパイス栽培のノウハウを持つ少数を除き、1万5千人を虐殺…

って、いきなりヤバない?

 

その後、東インド会社経由で奴隷を調達、住民がいなくなったバンダ群島に定住させ、固定価格でスパイスを販売し、大きな利益をえましたとさ。

ってひどない?

 

ちょっとこの本最大の衝撃かもしれないわー。

なんかナツメグの赤い実も、もはや血の色にしか見えんくなるわー。

結果的に、19世紀にたどり着く前に、ヨーロッパの植民地になって収奪的制度をガチガチに固められてしまった国は、スタート地点にも立てなかったということですわ。

 

本書には、「もしヨーロッパによる植民地化がなければ、東南アジア諸国が独自の絶対主義体制を強化したり、場合によっては名誉革命を起こせた可能性はあるも、その芽は摘まれてしまった」的な記述がある。

ホント、日本も鎖国してなかったらやられてたかもしれませんな。銀鉱山なんかもあるし、人口密度も高そうなイメージで、植民地にうってつけな場所。徳川幕府のような、絶対主義体制を17世紀に確立できてなかったらやられていたかもしれない…

 

<アフリカ>

奴隷貿易の帰結もショッキングだった。

18世紀末に起こった奴隷貿易廃絶への大きなうねり。ウィリアム・ウィルバーフォースというカリスマ的人物主導でイギリスでの奴隷貿易を違法とする動きが活発になる。
 
1807年    イギリス議会を説得し、奴隷貿易を違法とする法案を通過
1834年    大英帝国奴隷制度廃止

 

そうすると奴隷の需要がなくなるっつうことで、輸出するんじゃなく、アフリカでプランテーションの労働力にトランスフォーメーション。現地で「合法的な通商」のための産品を生産するために酷使されることに…

ひどない…?

 

しかも、現地の白人による支配の有様もちょっとエグい。

南アフリカでは19世紀にダイアモンドや金鉱が見つかり、鉱山労働への労働力を必要としていた。また、現地の白人農家が新興の黒人農家と競合することになったため、1913年に先住民土地法を作る。

南アフリカを近代的で豊かな地域と伝統的で貧しい地域に分割。国土の80%は20%のヨーロッパ人に与えられることになっていた。豊かさと貧しさを実際にもたらしたのは法律そのものだったと書かれているけど、西欧では身分や生まれが平等になる一方、植民地は地獄の搾取構造をガチガチに作っていく…

 

<カラーバー>

「カラーバー(色の障壁)」という言葉もちょっと初めて見たかも。これも胸糞悪い制度。

 

アパルトヘイト政権は、教育を受けたアフリカ人は鉱山や白人所有の農場に安価な労働力を提供するのではなく、白人と競合することに気づいた。早くも1904年には、工業経済にヨーロッパ人のための職種制限が導入された。アフリカ人が以下のような職業に就くことは許されなかった。
金属精錬技術者、試金者、鉱山監視人、鍛冶職人、ボイラー制作工、真鍮鋳型工、レンガ積み職人…このリストは木工機械工に至るまで延々と続いていた。アフリカ人は一挙に、工業部門のいかなる熟練業務に従事することも禁止されてしまったのだ。

これはよく知られた「色の障壁(カラーバー)」の具体例であり、南アフリカ政府によるいくつもの人種差別的発明の一つだった。カラーバーは1926年にすべての経済領域に拡大され、1980年代まで続いた。」(下巻55p)

 

奴隷制というと遠い昔に感じるけど、そこから端を発する不平等な社会制度は40年前まで残存していたと考えると、19世紀末の政治制度の帰結、だけで裕福か貧しいかが決まったというわけではないよなーと考えさせられた。

スタート地点に立ててない国がそこら中に沢山ある。「いかに効率よく、だれかを食い物にするか?」ということが、16世紀から20世紀まで世界のいたるところで行われきたけど、21世紀になってその状況はマシになってるんかなあ。植民地時代の体制を引き継いでいる国、社会主義共産主義思想をベースに建国した国、いろんなエリアにまだまだ平等な制度を持たない国が多くある。

もしくは、ミクロでみると人間社会のいたるところでバーがあるな。平等な社会の中でも形を変えたバーによる搾取が行われているよな…。多くの社会問題のアナロジーとしても、ホント噛み応えのある本だわ。

ひっくり返してみると自由、平等、博愛を合言葉に、西欧諸国を(力づくで)解放したナポレオンって、やっぱすごいんやなあ。引き続き、ハマって読み進めていきたい。