「資本主義の終焉と歴史の危機」を読んだよ

日本全国メチャ寒い中いかがお過ごしでしょうか。さて、国家の衰退についてが長すぎたので、比較的簡単に読めそうな本を読んだ。

 

「資本主義の終焉と歴史の危機」 水野 和夫

 

14年のベスト経済書ということで本屋に平積みされてたので、読んでみたが結構面白かった。現在の日本、世界の経済の状況を、「長い21世紀の価格革命の最終局面」、と称してブローデルの長い16世紀と比較しながら論が展開。価格革命についても改めて勉強できてよかった。

 

<利子革命>

1997年まで最も国際利回りが低かったのは17世紀ジェノバで、日本の10年国債利回りが2.0%下回った(1997年)。資本家が資本投資をして工場やビルを作っても満足できるリターンが得られない状況に陥っているのが現在の日本をはじめとした先進国の状況。

現在の社会はとっくに需要が飽和しているが、電子・金融空間にマネーが集められている点、新興国が投資対象になっている点が、近代から続く長い21世紀の価格革命を支えている。しかし旧来からの経済成長の仕組みがもう限界なので、お金が余ってバブルになるだけ…という主張。

 

<価格革命>

ここでブローデルの長い16世紀になぞらえて、長い21世紀というワードが出てくるが、筆者の主張は

①21世紀の経済成長も、16世紀に起こった経済成長と相似なもの

②16世紀と異なり、資本が国境を越えて移動し、旧来型財政出動は効果が限定される

 

本書では価格革命の説明がコンパクトにまとめられていて、改めて勉強になった。1477~1640年、欧州の物価は10.5倍に。とくに穀物は小麦が6.5倍。一方で名目賃金も4.5倍になったそうな。価格革命が起きた背景は三つ。

(1)ペストによる人口減が終了し、人口が増加した。

(2)欧州の経済が統合。地中海周辺の2400万人、新興地域の英蘭仏独3200万人、後進地域の東欧1400万人の経済圏が一体化

(3)スペインを通じ新大陸の銀が流入し、貨幣価値が低下した。

 

経済統合と人口増により供給に制約のある食料需要が非連続的に高まったところに大量の銀が流入してインフレが起きた…というのが16世紀の価格革命。うーん、高校の授業でならったことが、頭の中でリンクしてくるような気が?

 

興味深かったのが、賃金上昇について。ペスト当時の14世紀は人口の1/3が病死し、労働力は貴重だった。そのため荘園の支配者も農民に重税を課せなかった。これをブローデルが「労働者の黄金時代」と呼んだそうな。

しかし同時に、ウォーラスティンを引用して、黄金時代から搾取へのシフトを説明している。この危機的状況に対し、支配者の反動として、社会変革を通じ新たな余剰収奪の体制を構築すべく、封建的生産様式を資本主義的生産様式に置き換えたという…

この辺もうすら寒くなるような話し。現在も労働者は安月給で資本に働かされているからな。苦役…

 

<21世紀の価格革命>

一方、21世紀は新興国と先進国を経済統合する、BRICの29億人を世界市場に統合する試みであり、こうした中16世紀同様非連続性を持った価格上昇が生まれている。原油みたいな供給が限られた資源価格も非連続に上昇していて、物価上昇に各国が苦しめられているという。

20世紀の実質賃金のボトムは1918年第一次大戦終結で、その後、20世紀の労働者の黄金時代がスタート。1918~1991年にイギリス人実質賃金4.9倍(年率2.20%)に達し、福祉国家が実現した「黄金の時代」となった。1970年代以降、現代の価格革命が開始=資源価格の高騰、企業は利潤を上げられず、減少分を賃金カットによって補う動きをとっていると指摘。日本の2006年代は名目GDPは増加しているものの雇用者報酬が減少。データがある130年間で初。雇用者報酬の伸び率がマイナスになったことは、1990年以前にはなく、労働と資本の分配比率を初期に決めた割合が1世紀間変わっていなかった。しかし、20世紀末にグローバリゼーションの時代になって、資本側がこの比率を変えつつある。

日本は2002年~2008年、長期経済回復をしてきたが、雇用者報酬が減っているとの主張。雇用者報酬減の理由として、景気回復期に企業利益を確保し、配当を増やさなければ、経営者はクビになるから、企業経営者は配当を増やすため、雇用者報酬を削減したと説明。

…これホンマかいな笑。まあまあ、恐ろしい話。こうなってくると現代日本でまじめに労働してたらアホくさ、ってなるわな。

 

<資本主義の萌芽>

いろんな説があれど、筆者は12世紀こそ、資本主義の萌芽があったとの主張。その理由のところが面白い。

 

12~13年のフィレンツェで利子が容認された。もともとキリスト教社会で利子は禁止されていた。カール大帝が789年に聖職者や一般信徒にウスラ(高利貸し)を禁止していた。背景に貨幣の使用と流通が未普及だったこともある。

12世紀に貨幣経済が社会に浸透するにしたがって、イタリアフィレンツェに資本家が登場し、金融が発展。利子とは時間に値段をつけること。利子をとるという行為は、神の所有物である「時間」を人間が奪い取ることに他ならない。

これが、1215年のラテラノ公会議で容認され、利子が支払いの遅延に対する代償、あるいは両替商や会計係の労働に対する賃金、貸付資本の損失リスクの代償とみなされるときには、貨幣貸し付けに報酬がなされてもよいとされた。(ジャック・アタリ『所有の歴史』)

                                                                                                                                     

また、12世紀イタリアでボローニャ大学神聖ローマ皇帝から認可を受けた。13世紀にはローマからも認可を受ける。中世では知も神の所有物だったが、大学の公認は広く知識を普及させることを意味したとのこと。

 

この辺はちょっと興味深かった。当時、教会が権限を持って、世俗のことを取り仕切っていた時代なんやな。知識、時間…すべてが神という概念に支えられて支配されていた。なんかロマンあるよなあ笑

そこからペストで農民が貴重になって、価格革命につながっていって、17世紀に科学が発展していく。現代が資本主義からの卒業だったとして、中世から近世は神からの卒業なんだよなあー。んーロマン。でも、神を否定する過程で多くの科学者や大衆が殺されたり、社会変革には血がつきものだからな…

 

軽く読んだわりに、面白い本だったわ。書いてあることがすべて正しいとは思わないけど、世界システム論的に、21世紀は、第一次世界大戦以降ぐらいから続く、地球規模のグローバリゼーションの中で価格革命にさらされている。そしてこの20年くらい、資本家側が分配ルールを知らず知らずのうちに変えてきている。でも、今の社会の企業のトップだって、市民の一人だ。別に搾取のために、そうしているのではなく、株主総会で選任されるのだから仕方ない。需要は限界、原料は高い、サプライチェーンは複雑化。そんな中、コロナ対策として、先進国がアクセル踏みまくりの金融緩和をしまくっている。まさにシステムの限界。

今、日本で聞こえる「新しい資本主義」も新システムが見えない、近代の延命でしかない?この10年くらいは、みんな給料が上がらないから、老後のためにも株を買ってねと国ぐるみで推進してきたような気がしますが、かつてないクラッシュについても頭に入れながら生きないといけないのかな…

本書では長い21世紀の価格革命の終了を中国の経済成長が米国に追いつく2030年中盤とそうされているけど、この十年、いまだかつてない現代の終わりが拝めるのかも…

「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んだよ⑦

おはようございます。気が付けばもうクリスマス。今年もあと一週間。…全く実感ない。この数か月、国家はなぜ衰退するのかだけ考えてきてしまった笑ようやく全部読了。長かった…。終章部分の結論部分に近いまとめと全体の感想をメモしておこ。

 

<繁栄と衰退を分けるポイント>

本書テーマは下記の2点。

①政治と経済の収奪的制度と包括的制度を区別すること
②世界のある地域で包括的制度が生まれ、他の地域で生まれないのはなぜかを、私たちなりに説明すること。

第一段階は制度面から歴史を解釈し、第二段階は歴史がどのように国家制度の軌跡を形作ってきたかがテーマ。ホントこれでもかとちりばめられた世界中の政治体制の歴史やその問題点の紹介が面白かった。

①はシンプルに言うと、歴史的に見て繁栄している社会が、多元主義的な政治制度をどのように構築してきたかという点だとおもう。名誉革命後のイギリス。商人や製造業者といった旧来存在しなかった勢力が政治に参加したことが、イギリスを包括的社会にしていった。日本の明治維新大政奉還後、社会の様々な層の人々が政治に参画することができるようになっていった。こうした多元主義が好循環を生む。

でも、それを実現するには一定の中央集権的にパワーを持つ政治体制を持ち、法治主義を貫くことが必要だった。多元主義的で包括的な社会も、逆回転する。ヴェネチアがそうだった。議会が新参者を締め出し、包括的でなくなっていき、衰退。包括的制度だけでなく、いつでも巻き戻しのスイッチが入る可能性があるのもポイント。一方で、アメリカでも19世紀にフランクリン・D・ローズベルトが政策を通すために、最高裁に制限をかけようとしていたのは意外。結果、議会の反対で実現しなかったとは言え、常に権力と法が拮抗していることが大切。

 

②については、繁栄していない国家は、結局、17世紀から19世紀(地域によっては20世紀も)の植民地化の結果と、冷戦時の共産主義国家のありかたが色濃く政治体制のありかたにかかわっているという点を示唆していると思う。ジンバブエシエラレオネは反植民地運動から端を発した政治組織が収奪的な体制を作っている。冷戦時代の名残が、北朝鮮ウズベキスタンといった国を残存させている。どの国も経済的に厳しい状況だとしても、これらの国が内部から改革が起こることは望めない。悪循環から抜け出せない。

また、資源が乏しく植民地化から取り残された地域はその後包括的体制を獲得するケースもある。ボツワナは植民地時代に貴金属などの資源がなく、イギリスから放置されていたことで、本格的には植民地化されず、平等な政治体制を残存させることができた。アメリカ(バージニア)も人口密度が低く、収奪的な体制を維持できなかったことで、入植者それぞれに土地を与え、インセンティブを与え、発展の好循環を生む社会になったというのも面白い。帝国主義の時代に、帝国側になれたか?搾取される側か?それとも持たざるもので無視されたか?こうした歴史の帰結が現在の姿とリンクしている。

 

<収奪的制度下での経済成長>

収奪的制度下の成長が持続しない。その理由は下記。

 

①持続的経済成長にはイノベーションが必要。そしてイノベーションには創造的破壊が必要だが、創造的破壊をエリートが拒否する。収奪的制度を支配するエリートたちは創造的破壊を恐れて抵抗し、収奪的制度下で芽生える成長は、結局は短命で終わる。このあたりは、ソ連での5か年計画や鄧小平の改革開放が事例として紹介されている。

 

②収奪的制度を支配する層はうまみがでかい。収奪的制度下の政治権力を手に入れようとして多くの集団や個人が戦う。その結果、社会は政治的に不安定になっていく。シエラレオネの内戦なんかはこのパターン。個人的には鏡写しで、収奪的制度を敷く政治体制は転覆されないように、国民を監視し管理することもセットでやっていると思う。

 

絶対君主はイノベーションを恐れ、封じ込めるという点もポイント。イングランドでも中世は特許は権利の保護ではなく、君主のお気に入りに専売させるためのルールだった。国民が力を持つことを恐れた。ローマ時代もティベリウス帝が、神殿建設のイノベーションを抹殺した。苦役、労働は支配者が支配される側を縛り付けるための道具だった…

怖いわー。

 

アフガニスタン

最後にアフガニスタンの事例に結構なページが割かれている。

アメリカの9.11後にアルカイダをかくまったアフガニスタンタリバン政権を打倒した後、暫定政府を各国のNGOが支援したが、うまくいかなかったケースだ。直近タリバン政権が復活しているので非常に興味深かった。

国連をはじめ、各国のNGOが一斉にアフガニスタンへ金銭的な援助を行ったが、末端の国民には全く支援が届かなかった。なぜか?

答えは、NGOの支援が中抜きされているから笑

二重三重にNGOを通じて手数料が抜かれ、現地の地方有力者にも抜かれ、消えてしまう。インフラへの投資や教育に使われることなく、多くの支援が無駄になったと本書には記されている。全部が全部そうじゃないと思うけど、どこも同じですな…

 

アフガニスタンのような国が貧しいのは収奪的制度のせいだ所有権や法と秩序もまともに機能する法律制度もない。国のエリートやもっと多くの場合、地方のエリートが政界と財界に対外援助は略奪されたり、届くべき場所に届かなかったりして、高価を発揮できない。」(下巻/315ページ)

 

大事なのは金銭的支援じゃない。正しいルール、平等な制度…ってことですかね。

 

ホント、この本は理論より具体的事例が面白い。

アフガニスタンの話も中国の話もタイムリーだし、なんか疑問に思っていたことがちょっとすっきり。収奪的な政治体制ができる歴史的な流れについてもっと知りたいとこ。そうなると植民地時代の歴史をもっと知ったほうがいいのだろうなー。

 

もうちょっと読書時間を増やしたいなー、などと思う。

 

 

 

 

「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んだよ⑥

こんばんは。最近仕事が途方もなくハードで全く読書できてませんが、久々に土日ゆっくり過ごせました。先週は土日ともパワーポイントいじりで終わってしまい。全く能動的に過ごせなかったので、今週はホントゆっくり過ごせていいですわー

休みに仕事するものではないですね。

引き続き、「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んでます。悪循環のとこの話なんで、ちょっと退屈かなーと思ってましたが、メチャ面白く読めました。

 

<悪循環が断ち切れない>

国家の繁栄を阻害し衰退させる要素の前に、繁栄をもたらす包括的政治制度の出現を促す要素を復習。名誉革命フランス革命後により包括的な政治制度の出現を大きく促した要因として下記の要素が紹介されている。
            
①    多元主義:包括的制度を担う政治勢力の存在(商人、実業家階級の台頭)

創造的破壊の力を開放して、自分たちも恩恵を得たいと考えた        

新興勢力は革命的な同盟の主要メンバー        

自分たちが餌食になる収奪的制度の再発展は願い下げだった        

②    名誉革命フランス革命で形成された広範な同盟の性質        
商人、産業資本家、ジェントリ、幅広い政治勢力が支援した運動だった。        

フランス革命も同様である。様々な立場の人が政治に参加することがポイント。

選挙制度があるかないかといった、形だけの民主主義でなく)
            
③    政治制度の歴史        
イングランドマグナ・カルタ、フランスは名士会。

両国とも議会および権力分担という伝統があった。        

両革命もすでに絶対主義政権やそれを目指す政権の支配力が弱っていた最中に

発生したが、幅広いグループの利害が政治に反映される。

衰退と貧困の悪循環に陥る国は逆にこれらの要素の一部や全部が欠けている。

 

<悪循環の国>

本書、豊富な事例が紹介されていて面白い。ジンバブエシエラレオネ、コロンビア、アルゼンチンなどなど。世界史の中でメインどころの国ではないので、全く歴史を知らなかったですが、シエラレオネとか、メチャクチャやん…

上巻で問題提起されていた、「貧困についての誤った説」の複線がこの章で回収されていく。地理的にも、文化的にも異なる国々。うまくいかない共通項は収奪的政治、経済制度、といったように論が展開されていく点が痛快で面白かった。

貧困にあえぐ国の政治形態はバラバラなんだよね。アルゼンチンやコロンビアなど一部の国では一応民主主義があり選挙がある。ウズベキスタンのような旧ソ連の支配体制や北朝鮮共産党による一党独裁シエラレオネ長期の内戦状態。

収奪的政治制度が貧困の原因ではあるけど、もっと根源的な歴史的原因があるよなあと思ってしまう。それは①20世紀初頭以前に植民地化されていたか?と②冷戦時の東西のどちらに所属していたか?の2点に尽きるよね。なんか結果と原因がどっちがどっちやねんと思ってしまう。とにかく、今までよく知らない国の歴史の見本市として、本書はめっちゃ視野を開いてくれておもろかった。

 

<旧弊の打破>

一度悪循環に陥ると復活が難しいが、そんな状況から好転した国として、ボツワナと中国が紹介されてる。

 

ボツワナの歴史はスゴイ興味深かった。英植民地の時代を経ても首長による民主的な政治制度が維持されていたことで、比較的すんなり民主化できたというが、クエット・マシーレとセレツェ・カーマが結党したボツワナ民主党(BDP)のエピソードが面白かった。

カーマはングワト族の世襲の族長なんだけど、農業を改革したり、発見されたダイヤモンドを国家のインフラに投資したり、包括的制度の設置に貢献した人物。そしてボツワナはサハラ以南で最も経済的に発展したという、とてつもない知られざる偉人!

もともと、ヨーロッパ人に見つからないようにダイヤモンドなど貴金属や宝石の試掘を禁止していたというのも面白かった。英国の植民地だったが、資源がなく英国が積極的に開発せず、ほったらかしていたから、現地の制度が壊されずに残存できたんだという。

一方のシエラレオネはダイヤモンド利権を部族同志で争い、血塗られたダイヤモンドと呼ばれ利権争いが絶えず…。やっぱり植民地時代に変に資源が見つかってしまい、その利権吸い上げ構造が構築されると、そこから抜け出せない体質になってしまうのね。この辺はもうその国の持っている運命みたいなものも大いにあるな。

 

中国は収奪的制度のもとでの経済発展を達成した事例として出てくる。大躍進から鄧小平の改革による現在の姿になるまでもあらためて勉強。鄧小平の何度権力から追放されても戻ってくる姿はあらためてスゴイな。

しかし、鄧小平の改革は本書では共産党の支配を損なわない程度の改革として、真の包括的経済制度を生み出したものではないとされている。今の中国の姿はこのタイミングでの包括的経済制度への大転換の帰結だけど、今後の習近平政権が目指す「小康社会」っていったいどうなるのかな、と思った。

なぜなら、本書で紹介されている収奪的政治・経済制度下での経済成長を達成した国はアルゼンチンなども含め複数あるが、どこも頭打ちになる。市場から自然にイノベーションが生まれてこないためだ。

ちょっと前までは中国はすごいうまくいっていたと思うが、昨今のアリババの状況や、ゲーム、教育産業への干渉が、どういう帰結になるか興味深い。

 

そろそろ酒飲みたいので本日はこれにて。

「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んだよ⑤

こんばんは。

先週は旅行に行ってたので読書はスキップしてました。西日本某所に行きましたが、観光地の飲み屋もガンガンに満員でしたわ。しかし、景気いい店とそうでない店の優勝劣敗がスゴイ。最後に入ったバーとかガラガラだったけど、あれで大丈夫なんだろうか…

引き続き、「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」の下巻を読んでます。

 

<好循環と悪循環>

ちょっと順不同ですが、国家の繁栄には好循環と悪循環がある、という点がポイント。この辺、むーんとうならせられた。

 

①包括的経済、政治制度を持つ国

多様なグループが権力に歯止めをかけるので平等な経済、政治制度が保てる。また、収奪を目指すエリートが国民を収奪してもあまりメリットがないので、より平等になっていく。

名誉革命フランス革命が成功した背景には、絶対君主打倒に加担した多様な勢力が背景にある。商人、ジェントリ、製造業者などなど、既存の政治体制と利権に一線を画する勢力が政治に参加できるようになった点がポイント。

いままで破壊的イノベーションを嫌がっていた専制君主から、経済発展へのインセンティブの所在が異なる商人や製造業者の政治参加で一気に産業が発展した…と考えると、ロマンだね。靴下編み機を考えたウィリアム・リーもこの時代の人物だったら巨万の富を得られたはずなのに…

また、好循環がエリートの権力強化を撃退した事例で出てきたアメリカのニューディール政策の話とか、ちょっとびっくりした。アメリカでも、20世紀の初めには政治権力が法の独立に干渉しようとしていた時期もあったという…ちょっと驚きである。

 

②収奪的経済、政治制度を持つ国

エリートが政治制度を通じて国民を収奪していくと、無限に自分たちの権力を強める方向に制度を改善(改悪?)していく。また、収奪度を上げることで取り分の富を大きくする。(本書では、「政治ゲームで得られる賞金」を増やすと言いえて妙なワードで説明されている)

 

アフリカの農業生産性がなぜ低いのか?これはロバート・ベイツが1980年代に調査したテーマとして紹介されている。その背景には不平等な経済統制が農民のインセンティブをそいでいたからである、との説明がなされてて、この点も考えさせられた。イギリス植民地時代、間接統治のため、現地の首長には徴税権や法を執行する権限が委任されていた。また、販売委員会なる組織が設置され、農産品をすべて買い上げるシステムを作られていた。表向きは農民を守るシステムとされたが、実際は委員会が利益を中抜きし、農民は収奪されていた。

シエラレオネなどの事例が紹介されているけど、このあたりの「植民地時代の制度を継承した収奪的政治体制」みたいなものの姿は、現代の世界にもまだまだ存在する。歴史的帰結とは言え、大航海時代以降の不平等の仕組みについては、ちょっと今後も要勉強だなあ…

 

<ブラックス>

初めて出会ったワードだけど、イギリスの「ブラックス」という集団が出てくる。

18世紀、夜にだれかわからないように顔を黒塗りにして、鹿を違法に狩ったり、養魚場を破壊したりする集団。怖すぎる。地主や政治家がブラックスに襲撃されていたとも。

これは当時、政治的影響力を強めていたホイッグ党への民衆の抗議運動だったとして記述されている。そんなことあるん?ホイッグ党ってどっちかっていうと民主制議会政治の祖みたいなイメージを持ってたけど…と思い、ブラック法で調べたらウィキペディアウォルポールの記事に下記の記述が。

 

ロバート・ウォルポール - Wikipedia

『彼は、庶民院の多数を占め、政治的にトーリーが多い地主を満足させるために、土地税減税を定期的に実施していた。彼が戦争回避の外交に努めたのも土地税減税維持の観点が大きかった。1723年に地主のため「ブラック法」を制定、狩猟権を脅かす密漁行為を取り締まった。1727年には国債利子率を5%から4%に引き下げたが、金融ブルジョワの反発を買うことを避けるため、それ以上の引き下げは避けた。代わりに減債基金の余剰金を一般行政費に流用して賄おうとした。ウォルポールは1730年イギリス東インド会社依存公債の利払財源である塩税を廃止、不足分に減債基金を充当した。1732年に塩税を復活させ、大衆から搾取した。これは新規長期公債50万ポンドの発行原資となった。』

 

ちょっとよくわかんないけど、地主優遇の一環やったんかなあ。それとウォルポールの記事には言論統制についても書かれている。

 

『18世紀前半はジャーナリズム勃興期であり、新聞が世論に大きな影響を及ぼすようになった。ウォルポール政権はこれを危険視し、積極的なジャーナリズム統制政策をとった。ウォルポールのジャーナリスト統制は主に買収と言論弾圧によって行われた。野党ホイッグの立場を取っていた『ロンドン・ジャーナル』紙を1722年に買収して反政府言論をやめさせたのが、ジャーナリズム買収のもっとも有名な事例である』

 

マジでドン引きだわ。買収してまで批判をやめさすんか…。ホンマ、おっそろしい世界ですわ。やっぱり思った以上に近代黎明期は現代的感覚からすると、恐竜時代と石器時代くらいの開きあるな。

これを知ってから見返すと、19世紀初頭にロンドンのスパフィールド暴動やマンチェスターのピータールーの虐殺などなど、まだまだ民衆反乱がおきてましたよー、って聞いても納得かも。議会ができただけじゃ真の平等は達成できてはいないのね。チャーティスト運動なんかもあらためて勉強になりましたわ。

 

<反トラスト>

ちょっと時代が下るけど、アメリカの反トラスト法も好循環の事例として出てきてたな。

20世紀初頭、アメリカではあらゆる産業で巨大企業、巨大トラストが誕生。スタンダードオイル、JPモルガン、USスティール…さすがに名前聞いたことあるね。驚いたのが当時のトラストはその市場で70%以上のシェアを握っていたとも。そりゃやめられなくなりますな。そんな時代に道徳心を失った企業家を当時「泥棒男爵」と呼んだらしい。ネーミングセンス、直接的すぎない?

そんな世知辛い時代に、1890年シャーマン反トラスト法が設置され、20世紀初頭、セオドア・ローズベルトがトラスト解体に動く。その時のコメントの一部が下記。

 

「資本の連合と集中は禁止されるべきではないが、監視され、合理的な範囲で管理されるべきであるとの真摯な確信に基づくものです。」(下巻133ページ)

 

うーん、つまり談合とかでズルしちゃあかんと。ちょっと驚きなんですが、20世紀初頭の当時から、独禁法ってあったんですね。シャーマン法って小耳にはさんだことあるけど、こんな古い法律なの?とちょっと感動。

 

ジョン・シャーマン (政治家) - Wikipedia

しかもシャーマン、共和党。なんか面白い。

今も独禁法についての研修なんかでも触れられる法律が、百年以上前の政治的成果だとすると、ロマンがあるね。当時、大企業に涙をのまされてた人々のおかげで、現代の公正な市場があるのね。

 

この反トラスト運動にジャーナリズムの貢献があったとも紹介されている。新聞などで、泥棒男爵の実態を知った大衆が反トラスト的な政治を支持したと。自由な報道は国民が包括的政治の脅威を知る手段であると。

この一説を見てから、ウォルポールのウィキ見たらなんかガッカリしますな。100年ごとに世界は大きくアップデートされてきているってことなんかなあ。

 

あー、この本、終わらん。面白すぎる。フランス革命を掘り下げて知るブログだったはずなのに、全然違う方向に行ってしまっている。自由、平等、博愛の観点から、こんなものに手を出してしまったからか…

 

酒飲みたいので本日はこんなもんで。

「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んだよ④

もう11月も折り返し地点。今年も終わりですな。昨日久々に飲みに出かけたけど、飲み屋すごい勢いで、日常を取り戻してたな。メチャメチャ急激に金を使ってる。飲み代、タクシー代、昨日だけでも数万使ってる。忘年会シーズンで破産するかも…

 

<ちょっとまとめて総論>

もう結論から行くと、現在の豊な国とそうでない国の違いは、19世紀末の工業化に伴う経済成長の波に乗れたか?そうでないか?というところがポイント。

波に乗れた国は、政治権力の移譲によって、絶対主義から民主的な政治体制に移行しているという点がポイント。それに伴って、身分の平等、私有財産権、法の下での平等など、政治制度が平等になることが前提となっている。

絶対主義を打倒した包括的制度を持つ国(西欧+米豪+日本)と絶対主義が強化され工業化に抵抗した国(東欧+オスマン帝国+中国)を比較している。

特に西欧はナポレオン時代の周辺諸国への侵攻と、社会制度の力づくでの改革で、工業化の道が開かれた…と、やっぱりナポレオンってスゴイのね。

なんか寄り道してるけど、フランス革命からナポレオン戦争を勉強したいのに…

一体、俺は何をしてるん…?

 

<東南アジア>

バンダ群島の話が衝撃…

当時の覇権国家だったオランダが現地のスパイス貿易を独占しようとする中で、現地の政治権力者から貿易の独占権を認めてもらうパターンが多かったとあるが、バンダ群島はメースやナツメグといった産品を持つ都市国家の集合体だった。

 

メース/Mace|スパイス&ハーブ検索|S&B エスビー食品株式会社 (sbfoods.co.jp)

…メースってメジャーなんですかね。あまり知りませんでしたが。

 

そのため、オランダはバンダ群島では独占貿易ができず、様々な国と競合していた。この状況を打破すべく、初代バタビア総督のヤン・ピーテルス・クーンが艦隊を派遣してバンダ群島の住民のうちスパイス栽培のノウハウを持つ少数を除き、1万5千人を虐殺…

って、いきなりヤバない?

 

その後、東インド会社経由で奴隷を調達、住民がいなくなったバンダ群島に定住させ、固定価格でスパイスを販売し、大きな利益をえましたとさ。

ってひどない?

 

ちょっとこの本最大の衝撃かもしれないわー。

なんかナツメグの赤い実も、もはや血の色にしか見えんくなるわー。

結果的に、19世紀にたどり着く前に、ヨーロッパの植民地になって収奪的制度をガチガチに固められてしまった国は、スタート地点にも立てなかったということですわ。

 

本書には、「もしヨーロッパによる植民地化がなければ、東南アジア諸国が独自の絶対主義体制を強化したり、場合によっては名誉革命を起こせた可能性はあるも、その芽は摘まれてしまった」的な記述がある。

ホント、日本も鎖国してなかったらやられてたかもしれませんな。銀鉱山なんかもあるし、人口密度も高そうなイメージで、植民地にうってつけな場所。徳川幕府のような、絶対主義体制を17世紀に確立できてなかったらやられていたかもしれない…

 

<アフリカ>

奴隷貿易の帰結もショッキングだった。

18世紀末に起こった奴隷貿易廃絶への大きなうねり。ウィリアム・ウィルバーフォースというカリスマ的人物主導でイギリスでの奴隷貿易を違法とする動きが活発になる。
 
1807年    イギリス議会を説得し、奴隷貿易を違法とする法案を通過
1834年    大英帝国奴隷制度廃止

 

そうすると奴隷の需要がなくなるっつうことで、輸出するんじゃなく、アフリカでプランテーションの労働力にトランスフォーメーション。現地で「合法的な通商」のための産品を生産するために酷使されることに…

ひどない…?

 

しかも、現地の白人による支配の有様もちょっとエグい。

南アフリカでは19世紀にダイアモンドや金鉱が見つかり、鉱山労働への労働力を必要としていた。また、現地の白人農家が新興の黒人農家と競合することになったため、1913年に先住民土地法を作る。

南アフリカを近代的で豊かな地域と伝統的で貧しい地域に分割。国土の80%は20%のヨーロッパ人に与えられることになっていた。豊かさと貧しさを実際にもたらしたのは法律そのものだったと書かれているけど、西欧では身分や生まれが平等になる一方、植民地は地獄の搾取構造をガチガチに作っていく…

 

<カラーバー>

「カラーバー(色の障壁)」という言葉もちょっと初めて見たかも。これも胸糞悪い制度。

 

アパルトヘイト政権は、教育を受けたアフリカ人は鉱山や白人所有の農場に安価な労働力を提供するのではなく、白人と競合することに気づいた。早くも1904年には、工業経済にヨーロッパ人のための職種制限が導入された。アフリカ人が以下のような職業に就くことは許されなかった。
金属精錬技術者、試金者、鉱山監視人、鍛冶職人、ボイラー制作工、真鍮鋳型工、レンガ積み職人…このリストは木工機械工に至るまで延々と続いていた。アフリカ人は一挙に、工業部門のいかなる熟練業務に従事することも禁止されてしまったのだ。

これはよく知られた「色の障壁(カラーバー)」の具体例であり、南アフリカ政府によるいくつもの人種差別的発明の一つだった。カラーバーは1926年にすべての経済領域に拡大され、1980年代まで続いた。」(下巻55p)

 

奴隷制というと遠い昔に感じるけど、そこから端を発する不平等な社会制度は40年前まで残存していたと考えると、19世紀末の政治制度の帰結、だけで裕福か貧しいかが決まったというわけではないよなーと考えさせられた。

スタート地点に立ててない国がそこら中に沢山ある。「いかに効率よく、だれかを食い物にするか?」ということが、16世紀から20世紀まで世界のいたるところで行われきたけど、21世紀になってその状況はマシになってるんかなあ。植民地時代の体制を引き継いでいる国、社会主義共産主義思想をベースに建国した国、いろんなエリアにまだまだ平等な制度を持たない国が多くある。

もしくは、ミクロでみると人間社会のいたるところでバーがあるな。平等な社会の中でも形を変えたバーによる搾取が行われているよな…。多くの社会問題のアナロジーとしても、ホント噛み応えのある本だわ。

ひっくり返してみると自由、平等、博愛を合言葉に、西欧諸国を(力づくで)解放したナポレオンって、やっぱすごいんやなあ。引き続き、ハマって読み進めていきたい。

「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んだよ③

今日も集中して読書できました。引き続き、「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んでますが、うーん、考えさせられることばかり…

 

<ローマ共和制→帝政>

一時、塩野七海にハマってた時期があって、ローマ人の歴史読んでたなあ。

と、思いつつも、ローマの衰退も共和制から帝政になったことにより、社会がより収奪的になった要素を指摘されていて、うーんとうなった。

元老院の権限が大きくて、グラックスカエサル元老院に反発するも、最後、死に追いやられる。その後、アウグストゥスが元首制に移行させていく、ってとこはなんとなくイメージあったけど、その後、ローマは最大版図、繁栄を極めていくイメージが強かったので、帝政ってそない、悪いことなの?とも思った…

でも、結果的にいろんな弊害があったとのこと。

職業軍人の近衛兵の設置→皇帝の決定に影響力を与えるようになる

市民が軍務から離脱できない→一般のローマ人が政治に代表を送れなくなった

 

それからちょっと意外だったのが、紀元後14年、ティベリウスの治世。平民会をなくし、ローマ市民は政治的発言力を失った代わりに、無料のワイン、オリーブオイル、豚肉を恵んでもらった。そしてサーカスと剣闘士の試合を楽しんだ…と

この辺りは背筋の寒くなる思いが(汗)こんな政治への参加権を取り上げる、みたいな話だったかなと笑

ローマの歴史も復習したい

 

<ローマ時代/テクノロジーの支配>

これも以外だった。ローマと言ったら、水道橋とか街道とか、土木建築のテクノロジーが発展しているイメージだったが、実際はイノベーションを否定・・・というより技術を支配したとの記述。こんなエピソードが。

割れないガラスを発明した男がティベリウス帝に会いに行ったところ、拉致され殺されてしまった。ティベリウスのコメントとして、「金の価値がなくなってはいけない」と…

この本の一つ通底するテーマで、収奪的制度、収奪的政治体制っていうのは、単に搾取じゃなくて、「創造的破壊を否定する」というポイントがある。16世紀のウィリアム・リーの靴下編み機のエピソードなんかも紹介されてて、「そ、そんなバカな」とうならせられる。

このあたりの権力者が発明を踏みにじっていく歴史は涙なくしては読めないね…

 

イングランドの繁栄>

イギリスがなぜ産業革命を起こせたのか?その理由を追って、我々は13世紀まで時をさかのぼった…って感じで、話が展開されていくけど、英国の成功の歴史がコンパクトに、かつ豊富なエピソードと一緒にまとまっていて面白かった!

清教徒革命と名誉革命は勉強しなおさないとなーと思っていたけど、かいつまんで書いてあって助かりました。

 

王の課税権や司法への関与に制限をかける取り組みと、ジェントリ、製造業者、貿易業者など、多様な集団の利害について、議会が耳を傾ける仕組みがイングランドの繁栄に結び付いたと論が展開される。いやー、話がしみ込んでくる感じが快感でしたわ。

 

一方でこうした成功は偶然の産物とも。名誉革命で議会側が敗北していた可能性もある、と書かれていたけど、この辺のミクロな経過ももっとよく知ったら面白いかも。

 

そのほかの国の政治的状況も面白かったけど、また今度。とりあえず上巻読み終わりました。

 

「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んだよ②

気づけばもう11月。今年もラストスパートですね!

引き続き、「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んでますが、これめっちゃ面白いですわ。もっとさらっと読み終わって次の本に移りたいけど、ハマった。

今日読んだパートは「収奪的制度のもとでの成長」と「ヴェネチアの包括的政治制度がなぜ失敗したか?」ってとこだけど、ホント大興奮して読み進めました。

ソ連に対する、当時の空気って、あんまり想像できないけど、我々が歴史を振り返ると「ベルリンの壁崩壊」、「冷戦終結」、「ソビエト崩壊」というキーワードで全く盲目的に「失敗したのよねー」と思ってしまう。でも、ホントはそうじゃなくて、当時、「ソ連は大成功!」って礼賛されていた…

なんか、ビックリ。これも気づきだったわ…

 

当時の共通認識が、歴史的な結果を知ってしまった我々には滑稽に見えるけど、未来人が見た自分たちは…

もしかしたら、滑稽な存在かもね。

 

<収奪的制度下の成長>

第五章ですかね。「収奪的制度のもとでの成長は起こるか?」という問いへの答えと、ソビエトとブショング族のエピソードを持ってきて解説。

 

「だが収奪的制度のもとでの成長は、包括的制度によって生じる成長とは全くことなる。最も重要なのは、それが技術の変化を必要とする持続的な成長ではなく、既存の技術をもとにした成長だということだ。
ソ連の経済が描いた軌跡は、国家の与える権限とインセンティブがいかにして収奪的制度のもとで急速な経済成長を引っ張るか、そして最終的にはこのタイプの成長がいかにして終わりを迎え、破綻するかをはっきりと教えてくれる。」(213ページ/上巻)

 

手厳しいけど、当時、スターリンが指導した工業化、農業への課税で工業化の資金調達といった対応は、欧米で成功例として一部評価されていた、というのは驚き。

あとブショング族のクバ王国の事例も面白かった。聞いたことないなと思ったけど、コンゴ南部の17世紀の国なのね。(クバ王国 - Wikipedia

目的は収奪だけど、新大陸の農産物を導入したり、中央集権的社会制度を打ち立てて発展。技術を移植することで、一定の成長は可能。

 

でも、成長に限界がある。理由は主に二つで、①内部からイノベーションが起きない、②既得権から収奪するエリートに対して、非エリートが取って代わるべく戦いを挑み内紛が起こる、そこに限界がある…

また西側世界の多くの人々が、ソ連の成長に畏敬の念を抱いていたように、中国の経済成長の猛烈なスピードに魅了されている…と指摘も。著者は本書を通じて、中国の現状に否定的な立場だが、この点に正に興味がある。

中国が内部からイノベーションを生み出せるか?これはフラットな目線で注視したいところ。アジア人をなめちゃアカン…

 

<包括的制度を有する社会/ヴェネチア

水の都、ヴェニスヴェネチアの繁栄と衰退もコンパクトにまとまってて超おもしろかった。まず、人口。ヴェネチアって14世紀はヨーロッパ最大級の都市だったのね。

1050年    4万5千人    
1200年    7万人    
1330年    11万人    当時パリに匹敵、ロンドンの三倍規模

 

驚きはコメンダと呼ばれる、契約制度。包括的な経済制度として紹介されている。

コメンダは、資本を提供する定住パートナーと実際に貿易事業に従事する旅行パートナー同士の契約関係で、定住パートナーはヴェネチアから出ずに金だけ出し、旅行パートナーは危険を冒して旅をして、積み荷を運ぶ。お金を出す定住パートナーと一発当てたい旅行パートナーを結び付けて、事業をする仕組みで、資本家と事業家を結び付けるうまい制度とのこと。契約の形態によるけど、事業が成功したら、利益を75%資本家に私て、残りを旅行パートナーが得る。

一攫千金目指した若者が、社会的上昇を目指して、資本家とコメンダを結び、旅に出る。そうして、新参者が社会的上昇をしながらうまく経済、社会が発展する!

正に地中海ドリーム!ロマンがある。

 

<衰退/ヴェネチア

でも、次第に既得権益化した有力者が評議会の実権を握ってしまう。もともと、評議会から抽選で選ばれた委員会が翌年の評議会の議員を選ぶ制度が、世襲化していく。

 

ヴェネチアの包括的制度に支えられた経済成長には、創造的破壊が伴っていた。
コメンダをはじめとする経済制度を通じて裕福になった野心ある若者の新しい波が押し寄せるたびに、規制のエリートの利益と経済的成功は損なわれることが多かった。

彼らはエリート層の利益を損なっただけでなく、その政治力をも脅かした。したがって、大評議会に属する規制のエリートはこんな誘惑に絶えず駆られていたのだ。罰せられずに済むなら、こうした新興勢力に対して体制を閉ざしてしまいものだ、と。」(259ページ/上巻)

 

これは往々にしてどんな社会にも存在する誘惑だな。急速な社会の成長。有力者が既得権益を守ろうとする。その時に、法律を自分たちの有利に変えるとき、世界一イノベーティブな政治制度を有する国も、一気に衰退する。本当にいろいろと考えさせられるな…。

 

頭の体操に、今の日本も高度経済成長が終わって、既得権益と、そうでない者たちの分断ができていると考えると薄ら寒い。(政治的にはこの上なく平等だとは思うけど)

 

こうなってくるとアメリカのことも知りたいと思うよね。移民、多様な人種が共存しつつ、イノベーションが生まれ、出自に関係なく誰もが成功を目指せる国…ということになっている。

 

なんか脳内と視界が拡張される感じで、いい感じの本ですな。引き続きハマって呼んでいきたいと思います。