「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んだよ⑦

おはようございます。気が付けばもうクリスマス。今年もあと一週間。…全く実感ない。この数か月、国家はなぜ衰退するのかだけ考えてきてしまった笑ようやく全部読了。長かった…。終章部分の結論部分に近いまとめと全体の感想をメモしておこ。

 

<繁栄と衰退を分けるポイント>

本書テーマは下記の2点。

①政治と経済の収奪的制度と包括的制度を区別すること
②世界のある地域で包括的制度が生まれ、他の地域で生まれないのはなぜかを、私たちなりに説明すること。

第一段階は制度面から歴史を解釈し、第二段階は歴史がどのように国家制度の軌跡を形作ってきたかがテーマ。ホントこれでもかとちりばめられた世界中の政治体制の歴史やその問題点の紹介が面白かった。

①はシンプルに言うと、歴史的に見て繁栄している社会が、多元主義的な政治制度をどのように構築してきたかという点だとおもう。名誉革命後のイギリス。商人や製造業者といった旧来存在しなかった勢力が政治に参加したことが、イギリスを包括的社会にしていった。日本の明治維新大政奉還後、社会の様々な層の人々が政治に参画することができるようになっていった。こうした多元主義が好循環を生む。

でも、それを実現するには一定の中央集権的にパワーを持つ政治体制を持ち、法治主義を貫くことが必要だった。多元主義的で包括的な社会も、逆回転する。ヴェネチアがそうだった。議会が新参者を締め出し、包括的でなくなっていき、衰退。包括的制度だけでなく、いつでも巻き戻しのスイッチが入る可能性があるのもポイント。一方で、アメリカでも19世紀にフランクリン・D・ローズベルトが政策を通すために、最高裁に制限をかけようとしていたのは意外。結果、議会の反対で実現しなかったとは言え、常に権力と法が拮抗していることが大切。

 

②については、繁栄していない国家は、結局、17世紀から19世紀(地域によっては20世紀も)の植民地化の結果と、冷戦時の共産主義国家のありかたが色濃く政治体制のありかたにかかわっているという点を示唆していると思う。ジンバブエシエラレオネは反植民地運動から端を発した政治組織が収奪的な体制を作っている。冷戦時代の名残が、北朝鮮ウズベキスタンといった国を残存させている。どの国も経済的に厳しい状況だとしても、これらの国が内部から改革が起こることは望めない。悪循環から抜け出せない。

また、資源が乏しく植民地化から取り残された地域はその後包括的体制を獲得するケースもある。ボツワナは植民地時代に貴金属などの資源がなく、イギリスから放置されていたことで、本格的には植民地化されず、平等な政治体制を残存させることができた。アメリカ(バージニア)も人口密度が低く、収奪的な体制を維持できなかったことで、入植者それぞれに土地を与え、インセンティブを与え、発展の好循環を生む社会になったというのも面白い。帝国主義の時代に、帝国側になれたか?搾取される側か?それとも持たざるもので無視されたか?こうした歴史の帰結が現在の姿とリンクしている。

 

<収奪的制度下での経済成長>

収奪的制度下の成長が持続しない。その理由は下記。

 

①持続的経済成長にはイノベーションが必要。そしてイノベーションには創造的破壊が必要だが、創造的破壊をエリートが拒否する。収奪的制度を支配するエリートたちは創造的破壊を恐れて抵抗し、収奪的制度下で芽生える成長は、結局は短命で終わる。このあたりは、ソ連での5か年計画や鄧小平の改革開放が事例として紹介されている。

 

②収奪的制度を支配する層はうまみがでかい。収奪的制度下の政治権力を手に入れようとして多くの集団や個人が戦う。その結果、社会は政治的に不安定になっていく。シエラレオネの内戦なんかはこのパターン。個人的には鏡写しで、収奪的制度を敷く政治体制は転覆されないように、国民を監視し管理することもセットでやっていると思う。

 

絶対君主はイノベーションを恐れ、封じ込めるという点もポイント。イングランドでも中世は特許は権利の保護ではなく、君主のお気に入りに専売させるためのルールだった。国民が力を持つことを恐れた。ローマ時代もティベリウス帝が、神殿建設のイノベーションを抹殺した。苦役、労働は支配者が支配される側を縛り付けるための道具だった…

怖いわー。

 

アフガニスタン

最後にアフガニスタンの事例に結構なページが割かれている。

アメリカの9.11後にアルカイダをかくまったアフガニスタンタリバン政権を打倒した後、暫定政府を各国のNGOが支援したが、うまくいかなかったケースだ。直近タリバン政権が復活しているので非常に興味深かった。

国連をはじめ、各国のNGOが一斉にアフガニスタンへ金銭的な援助を行ったが、末端の国民には全く支援が届かなかった。なぜか?

答えは、NGOの支援が中抜きされているから笑

二重三重にNGOを通じて手数料が抜かれ、現地の地方有力者にも抜かれ、消えてしまう。インフラへの投資や教育に使われることなく、多くの支援が無駄になったと本書には記されている。全部が全部そうじゃないと思うけど、どこも同じですな…

 

アフガニスタンのような国が貧しいのは収奪的制度のせいだ所有権や法と秩序もまともに機能する法律制度もない。国のエリートやもっと多くの場合、地方のエリートが政界と財界に対外援助は略奪されたり、届くべき場所に届かなかったりして、高価を発揮できない。」(下巻/315ページ)

 

大事なのは金銭的支援じゃない。正しいルール、平等な制度…ってことですかね。

 

ホント、この本は理論より具体的事例が面白い。

アフガニスタンの話も中国の話もタイムリーだし、なんか疑問に思っていたことがちょっとすっきり。収奪的な政治体制ができる歴史的な流れについてもっと知りたいとこ。そうなると植民地時代の歴史をもっと知ったほうがいいのだろうなー。

 

もうちょっと読書時間を増やしたいなー、などと思う。