「資本主義の終焉と歴史の危機」を読んだよ

日本全国メチャ寒い中いかがお過ごしでしょうか。さて、国家の衰退についてが長すぎたので、比較的簡単に読めそうな本を読んだ。

 

「資本主義の終焉と歴史の危機」 水野 和夫

 

14年のベスト経済書ということで本屋に平積みされてたので、読んでみたが結構面白かった。現在の日本、世界の経済の状況を、「長い21世紀の価格革命の最終局面」、と称してブローデルの長い16世紀と比較しながら論が展開。価格革命についても改めて勉強できてよかった。

 

<利子革命>

1997年まで最も国際利回りが低かったのは17世紀ジェノバで、日本の10年国債利回りが2.0%下回った(1997年)。資本家が資本投資をして工場やビルを作っても満足できるリターンが得られない状況に陥っているのが現在の日本をはじめとした先進国の状況。

現在の社会はとっくに需要が飽和しているが、電子・金融空間にマネーが集められている点、新興国が投資対象になっている点が、近代から続く長い21世紀の価格革命を支えている。しかし旧来からの経済成長の仕組みがもう限界なので、お金が余ってバブルになるだけ…という主張。

 

<価格革命>

ここでブローデルの長い16世紀になぞらえて、長い21世紀というワードが出てくるが、筆者の主張は

①21世紀の経済成長も、16世紀に起こった経済成長と相似なもの

②16世紀と異なり、資本が国境を越えて移動し、旧来型財政出動は効果が限定される

 

本書では価格革命の説明がコンパクトにまとめられていて、改めて勉強になった。1477~1640年、欧州の物価は10.5倍に。とくに穀物は小麦が6.5倍。一方で名目賃金も4.5倍になったそうな。価格革命が起きた背景は三つ。

(1)ペストによる人口減が終了し、人口が増加した。

(2)欧州の経済が統合。地中海周辺の2400万人、新興地域の英蘭仏独3200万人、後進地域の東欧1400万人の経済圏が一体化

(3)スペインを通じ新大陸の銀が流入し、貨幣価値が低下した。

 

経済統合と人口増により供給に制約のある食料需要が非連続的に高まったところに大量の銀が流入してインフレが起きた…というのが16世紀の価格革命。うーん、高校の授業でならったことが、頭の中でリンクしてくるような気が?

 

興味深かったのが、賃金上昇について。ペスト当時の14世紀は人口の1/3が病死し、労働力は貴重だった。そのため荘園の支配者も農民に重税を課せなかった。これをブローデルが「労働者の黄金時代」と呼んだそうな。

しかし同時に、ウォーラスティンを引用して、黄金時代から搾取へのシフトを説明している。この危機的状況に対し、支配者の反動として、社会変革を通じ新たな余剰収奪の体制を構築すべく、封建的生産様式を資本主義的生産様式に置き換えたという…

この辺もうすら寒くなるような話し。現在も労働者は安月給で資本に働かされているからな。苦役…

 

<21世紀の価格革命>

一方、21世紀は新興国と先進国を経済統合する、BRICの29億人を世界市場に統合する試みであり、こうした中16世紀同様非連続性を持った価格上昇が生まれている。原油みたいな供給が限られた資源価格も非連続に上昇していて、物価上昇に各国が苦しめられているという。

20世紀の実質賃金のボトムは1918年第一次大戦終結で、その後、20世紀の労働者の黄金時代がスタート。1918~1991年にイギリス人実質賃金4.9倍(年率2.20%)に達し、福祉国家が実現した「黄金の時代」となった。1970年代以降、現代の価格革命が開始=資源価格の高騰、企業は利潤を上げられず、減少分を賃金カットによって補う動きをとっていると指摘。日本の2006年代は名目GDPは増加しているものの雇用者報酬が減少。データがある130年間で初。雇用者報酬の伸び率がマイナスになったことは、1990年以前にはなく、労働と資本の分配比率を初期に決めた割合が1世紀間変わっていなかった。しかし、20世紀末にグローバリゼーションの時代になって、資本側がこの比率を変えつつある。

日本は2002年~2008年、長期経済回復をしてきたが、雇用者報酬が減っているとの主張。雇用者報酬減の理由として、景気回復期に企業利益を確保し、配当を増やさなければ、経営者はクビになるから、企業経営者は配当を増やすため、雇用者報酬を削減したと説明。

…これホンマかいな笑。まあまあ、恐ろしい話。こうなってくると現代日本でまじめに労働してたらアホくさ、ってなるわな。

 

<資本主義の萌芽>

いろんな説があれど、筆者は12世紀こそ、資本主義の萌芽があったとの主張。その理由のところが面白い。

 

12~13年のフィレンツェで利子が容認された。もともとキリスト教社会で利子は禁止されていた。カール大帝が789年に聖職者や一般信徒にウスラ(高利貸し)を禁止していた。背景に貨幣の使用と流通が未普及だったこともある。

12世紀に貨幣経済が社会に浸透するにしたがって、イタリアフィレンツェに資本家が登場し、金融が発展。利子とは時間に値段をつけること。利子をとるという行為は、神の所有物である「時間」を人間が奪い取ることに他ならない。

これが、1215年のラテラノ公会議で容認され、利子が支払いの遅延に対する代償、あるいは両替商や会計係の労働に対する賃金、貸付資本の損失リスクの代償とみなされるときには、貨幣貸し付けに報酬がなされてもよいとされた。(ジャック・アタリ『所有の歴史』)

                                                                                                                                     

また、12世紀イタリアでボローニャ大学神聖ローマ皇帝から認可を受けた。13世紀にはローマからも認可を受ける。中世では知も神の所有物だったが、大学の公認は広く知識を普及させることを意味したとのこと。

 

この辺はちょっと興味深かった。当時、教会が権限を持って、世俗のことを取り仕切っていた時代なんやな。知識、時間…すべてが神という概念に支えられて支配されていた。なんかロマンあるよなあ笑

そこからペストで農民が貴重になって、価格革命につながっていって、17世紀に科学が発展していく。現代が資本主義からの卒業だったとして、中世から近世は神からの卒業なんだよなあー。んーロマン。でも、神を否定する過程で多くの科学者や大衆が殺されたり、社会変革には血がつきものだからな…

 

軽く読んだわりに、面白い本だったわ。書いてあることがすべて正しいとは思わないけど、世界システム論的に、21世紀は、第一次世界大戦以降ぐらいから続く、地球規模のグローバリゼーションの中で価格革命にさらされている。そしてこの20年くらい、資本家側が分配ルールを知らず知らずのうちに変えてきている。でも、今の社会の企業のトップだって、市民の一人だ。別に搾取のために、そうしているのではなく、株主総会で選任されるのだから仕方ない。需要は限界、原料は高い、サプライチェーンは複雑化。そんな中、コロナ対策として、先進国がアクセル踏みまくりの金融緩和をしまくっている。まさにシステムの限界。

今、日本で聞こえる「新しい資本主義」も新システムが見えない、近代の延命でしかない?この10年くらいは、みんな給料が上がらないから、老後のためにも株を買ってねと国ぐるみで推進してきたような気がしますが、かつてないクラッシュについても頭に入れながら生きないといけないのかな…

本書では長い21世紀の価格革命の終了を中国の経済成長が米国に追いつく2030年中盤とそうされているけど、この十年、いまだかつてない現代の終わりが拝めるのかも…