「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んだよ②

気づけばもう11月。今年もラストスパートですね!

引き続き、「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」を読んでますが、これめっちゃ面白いですわ。もっとさらっと読み終わって次の本に移りたいけど、ハマった。

今日読んだパートは「収奪的制度のもとでの成長」と「ヴェネチアの包括的政治制度がなぜ失敗したか?」ってとこだけど、ホント大興奮して読み進めました。

ソ連に対する、当時の空気って、あんまり想像できないけど、我々が歴史を振り返ると「ベルリンの壁崩壊」、「冷戦終結」、「ソビエト崩壊」というキーワードで全く盲目的に「失敗したのよねー」と思ってしまう。でも、ホントはそうじゃなくて、当時、「ソ連は大成功!」って礼賛されていた…

なんか、ビックリ。これも気づきだったわ…

 

当時の共通認識が、歴史的な結果を知ってしまった我々には滑稽に見えるけど、未来人が見た自分たちは…

もしかしたら、滑稽な存在かもね。

 

<収奪的制度下の成長>

第五章ですかね。「収奪的制度のもとでの成長は起こるか?」という問いへの答えと、ソビエトとブショング族のエピソードを持ってきて解説。

 

「だが収奪的制度のもとでの成長は、包括的制度によって生じる成長とは全くことなる。最も重要なのは、それが技術の変化を必要とする持続的な成長ではなく、既存の技術をもとにした成長だということだ。
ソ連の経済が描いた軌跡は、国家の与える権限とインセンティブがいかにして収奪的制度のもとで急速な経済成長を引っ張るか、そして最終的にはこのタイプの成長がいかにして終わりを迎え、破綻するかをはっきりと教えてくれる。」(213ページ/上巻)

 

手厳しいけど、当時、スターリンが指導した工業化、農業への課税で工業化の資金調達といった対応は、欧米で成功例として一部評価されていた、というのは驚き。

あとブショング族のクバ王国の事例も面白かった。聞いたことないなと思ったけど、コンゴ南部の17世紀の国なのね。(クバ王国 - Wikipedia

目的は収奪だけど、新大陸の農産物を導入したり、中央集権的社会制度を打ち立てて発展。技術を移植することで、一定の成長は可能。

 

でも、成長に限界がある。理由は主に二つで、①内部からイノベーションが起きない、②既得権から収奪するエリートに対して、非エリートが取って代わるべく戦いを挑み内紛が起こる、そこに限界がある…

また西側世界の多くの人々が、ソ連の成長に畏敬の念を抱いていたように、中国の経済成長の猛烈なスピードに魅了されている…と指摘も。著者は本書を通じて、中国の現状に否定的な立場だが、この点に正に興味がある。

中国が内部からイノベーションを生み出せるか?これはフラットな目線で注視したいところ。アジア人をなめちゃアカン…

 

<包括的制度を有する社会/ヴェネチア

水の都、ヴェニスヴェネチアの繁栄と衰退もコンパクトにまとまってて超おもしろかった。まず、人口。ヴェネチアって14世紀はヨーロッパ最大級の都市だったのね。

1050年    4万5千人    
1200年    7万人    
1330年    11万人    当時パリに匹敵、ロンドンの三倍規模

 

驚きはコメンダと呼ばれる、契約制度。包括的な経済制度として紹介されている。

コメンダは、資本を提供する定住パートナーと実際に貿易事業に従事する旅行パートナー同士の契約関係で、定住パートナーはヴェネチアから出ずに金だけ出し、旅行パートナーは危険を冒して旅をして、積み荷を運ぶ。お金を出す定住パートナーと一発当てたい旅行パートナーを結び付けて、事業をする仕組みで、資本家と事業家を結び付けるうまい制度とのこと。契約の形態によるけど、事業が成功したら、利益を75%資本家に私て、残りを旅行パートナーが得る。

一攫千金目指した若者が、社会的上昇を目指して、資本家とコメンダを結び、旅に出る。そうして、新参者が社会的上昇をしながらうまく経済、社会が発展する!

正に地中海ドリーム!ロマンがある。

 

<衰退/ヴェネチア

でも、次第に既得権益化した有力者が評議会の実権を握ってしまう。もともと、評議会から抽選で選ばれた委員会が翌年の評議会の議員を選ぶ制度が、世襲化していく。

 

ヴェネチアの包括的制度に支えられた経済成長には、創造的破壊が伴っていた。
コメンダをはじめとする経済制度を通じて裕福になった野心ある若者の新しい波が押し寄せるたびに、規制のエリートの利益と経済的成功は損なわれることが多かった。

彼らはエリート層の利益を損なっただけでなく、その政治力をも脅かした。したがって、大評議会に属する規制のエリートはこんな誘惑に絶えず駆られていたのだ。罰せられずに済むなら、こうした新興勢力に対して体制を閉ざしてしまいものだ、と。」(259ページ/上巻)

 

これは往々にしてどんな社会にも存在する誘惑だな。急速な社会の成長。有力者が既得権益を守ろうとする。その時に、法律を自分たちの有利に変えるとき、世界一イノベーティブな政治制度を有する国も、一気に衰退する。本当にいろいろと考えさせられるな…。

 

頭の体操に、今の日本も高度経済成長が終わって、既得権益と、そうでない者たちの分断ができていると考えると薄ら寒い。(政治的にはこの上なく平等だとは思うけど)

 

こうなってくるとアメリカのことも知りたいと思うよね。移民、多様な人種が共存しつつ、イノベーションが生まれ、出自に関係なく誰もが成功を目指せる国…ということになっている。

 

なんか脳内と視界が拡張される感じで、いい感じの本ですな。引き続きハマって呼んでいきたいと思います。